夏のコーナー始まっています
こんにちは。
なんと、梅雨が明けたそうですね。ポラン堂古書店のある夙川のある近畿地方も、6/28に梅雨明けだそうで、史上最速だそうです。もちろん梅雨の長さも史上最短です。
けれどもポラン堂古書店では、このことに先駆けてと言ってもいいでしょう、夏特集のコーナーが始まっているのです。
夏の作品、思い浮かべただけでもたくさんありますし、季節は長いです。今後もいろいろなかたちで変動していく予定のコーナーですが、どうぞ夏を感じて頂ければと思います。
本日は夏コーナーにある作品、3選をお届けです。
湯本香樹実『夏の庭』
えっ読んでないの、と先生(ポラン堂書店店主)に何度驚かれたかわかりません。
言わずと知れた名作、と聞き及んでおきながら、積読にしてしまっていたこと数年、やっと頁を開き、瞬く間に読み終えてしまった。ハードルなんて軽々と越えてしまう面白さ、夏特集の代表といっても差し支えない作品です。
小学六年生の木山(作中の視点「ぼく」)、河辺、山下の三人は、近所の古い家にひとり住むおじいさんの観察を始めます。おじいさんの死ぬ瞬間を見たい、という目的で。
家族はおらず、コンビニの弁当や缶詰を食べ、ゴミ出しも碌にしないおじいさんと、夏休みの毎日を塀に隠れ、おじいさんの死を待つ少年たち。苦い後味を覚悟しなくてはならないと身構えたとき、おじいさんと少年たちは出会います。
最初はもちろん、目的が目的なもんですから、険悪に違いないのですが、くそじじいと呼び、バケツの水が浴びせられ、よくあるような無いようなどたばたが次第に心地よくなってくる。意地で観察を続ける少年たちと、観察を知ったうえで放っておくおじいさんに互いを面白がるような気持ちが芽生え始めているのがわかるのです。
短い二百頁ほどの小説です。気を抜くと展開を全て伝えてしまいそうになるのですが、どうか読んでほしいのでここらで留めます。
少年たちの家族にも、おじいさんの過去にも、ほの暗さは付きまといますが、だからこそそれぞれの孤独が小さく響き合う。ひと夏の、ほろ苦く、でも幸せな作品です。
柴村仁『プシュケの涙』
元々電撃文庫のライトノベルレーベルで出版された作品でした。高校生だった私は、その衝撃的な展開と、あまりにも美しいやるせなさに魅了され、一巻で終わりながらも傑作のライトノベルとして、強く記憶に刻みました。
やがて新装版、続編にあたる三冊が順に出るにつけ、先生(ポラン堂店主)や大学で出会った友人たちとこの作品の話ができることに驚きました。いろんなところでやはり、この作品は衝撃的だったのです。
夏休みのさなか、女子生徒が校舎から飛び降りて死んでしまうという始まりです。その目撃者である「僕」に、彼女と同じ美術部員だった由良が声をかける。彼らは、何故彼女は自殺をしたのか、を探ることになりますが、二人は探偵と助手のようなバディにはなれません。奇人、宇宙人と噂され、飄々としながらも時に狂気を滲ませる由良のふるまいは、やがて「僕」を追い込んでいくことになるからです。
この作品は二部構成です。前半と後半が逆であれば、と考えていやいやそれなら名作とはならなかった、と読み返すたびに思います。それほど完璧で、この作品が私の心に残る由縁となった残酷な二部構成です。
全体として、私がひそかに柴村さんの真骨頂と思っている、高校生同士もあまりになめらかで飾り気のない会話も注目いただきたいところです。
村上春樹「螢」
大学生の頃、先生(店主)に村上春樹を読むなら「螢」を読みなさいと啓示を受け、図書館で『村上春樹全作品』の太い一冊の中から「螢」を読みました。当時の私すらそのラストシーンの美しさを胸に刻みました。
そして数年経って、上記の写真にもある『螢・納屋を焼く・その他短編』を読む機会があり、「螢」を再読したのですが、ささやかながら読む側の解像度が上がったという意識もあったんですけども、本当に、異常なほど美しい文章だと思いました。とんでもない集中力で書いたのだろうと思う、47頁です。
学生寮に住む大学生の「僕」は、高校生の頃に亡くした友人の恋人とデートを重ねるようになります。高校時代は死んだ「彼」を介してしかうまく話ができなかった「彼女」と、いろんな話をしたり、あてもなく歩いたり、やがてプレゼントを贈り合ったりするようになります。彼の死を、二人の間に横たえながら。
実際に「螢」は長編小説『ノルウェイの森』の冒頭部分でもあります。ただ、感じ方が別作品のように違う。違いの大きな要素として「螢」には、僕・彼・彼女の名前がありません。なぜなら作中には「僕」「彼」「彼女」 しか、必要がない。僕にとっての「彼」は彼だし、別の「彼女」も出てこない。三人だけの話、寂しくて優しい短編が「螢」です。
夏に始まり、一年を経るのですが、夏に終わります。今回三度目を読むと、ラストの螢の軌跡に涙が出そうになりました。村上春樹氏やノルウェイや、前知識は全て横において読んでほしい、傑作です。
以上、3選でした。
夏というのはあまりにも「死」の隣にある作品が多いです。そんなことはない、というご意見も勿論あると思います。ただ上記3作以外にも、思い浮かぶものほとんどが「死」をあらすじに含んでいる。個人的にちょっと驚くべき、発見でした。
照りつける太陽、生命力みなぎるイメージがその対極を引き寄せてしまうんでしょうか。夏休みを象徴するように、あまりにも長い時間を有する季節が、ふっと死の隙間をつくってしまうんでしょうか。
まだまだ夏は始まったばかり、テーマ:夏、に類するテーマがこのブログにも今後たびたび現れるでしょうけれど、別の切り口を探すのが困難かもしれないというほど、夏と死、の結びつきはなかなか強固に思えてなりません。
まぁどちらにせよ、明るく参ります。上記の作品らも「死」をもっていながら暗いというわけではないのです。とにかくおすすめでございます。ぜひ。
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