2022年上半期、一番面白かった本の話
こんにちは。
下半期初ブログでございます。
今回は、私とサポーターズ仲間の梅子さんの二人で上半期読んだ中で一番面白かった本の紹介というのをやりたいと思います。
今年発表された作品で、なんて縛りはありません。ただ、ただ、上半期読んで面白かった本、というテーマでやっておりますので、個人的にまして個人的な一番でございます。ご了承くださいませ。
ではまず、梅子さんからです。
このブログを運営されているあひるさんが、読書超人と紹介してくれたからには300冊くらい読んでおきたかったところ、ギリ3桁。アルセウスのせいで一冊も読まず月があると、少し恥いった心境で上半期ベスト1です。
「ポケットモンスターアルセウス」これまでのポケモンの常識である、トレーナー絶対安全説にヒビを入れ、アクションとスリルを芽吹かせた罪深い作品です。
すいません、違いますね。はい。ふざけました、ごめんなさい。今回字数少ないのに、何やっとるんだか。
本ね、本。うーん、そうだなぁ、まず分かってほしいのだが、私は本をかなりジャンクに読む。本を読めて、集中できて、賢そうに見える、一石三鳥の娯楽だ。なので、順位をつけるとなっても、文章が巧み、表現が独創的、想像だにしなかったアイディア、とかそういう誰もが頷ける審査基準は持ち合わせていない。
好きだという気持ちだけで選んでいる。
汀こるもの「探偵は御簾の中」
ジャンルは平安ラブコメミステリー。平安時代を舞台に、夫婦の愛で謎を解く楽しいお話です。
妻の忍が三人目の子供を産み終わったところから始まり、夫の祐貴は若くして検非違使の別当(警察の一番偉い人くらい)を務める関係で様々な事件に巻き込まれていく。わけでもない、事件の裏を返すと、原因は平安らしくない二人の夫婦事情にあったりもする。
雅な和歌や源氏物語からも分かる通り、平安時代の貴族は一夫多妻が当たり前だ。妻が一人しかいないなんてのはとんだ変態、夜這いの一つもできない男は無能、ただし自分の妻に近づいた男は切り捨てごめんで許される。
とんだ異世界、もしやこれもファンタジー?
世界の法則に従わず、妻一筋なんて掲げる祐貴だから、周りの家族や友人、部下たちに迷惑をかける。結果、余計なお世話をされることで二人の(現代的な)平穏は失われていく。
忍は忍で夫に愛人作ってこいとせっつきながら、御簾の中から転がり出そうな程に首を伸ばして事件に突っ込もうとする。
読者の常識から言えば、祐貴の恋愛観は共感しやすく、人妻を夜這えと唆す友人達にドン引きやすい。多少ヘタレの事勿れ主義だけど、いざとなれば踏ん張る泣き虫は応援しやすい、やも。
忍を見る時は、多少ハラハラさせられながら、あんた大人しくしときなさいよと小言を言いたくなる。ものの、まぁあんたなりに色々祐貴の事考えてるのね、頑張りなと近所のおばちゃんの心境に至る。やも。
現代の法令が染み付いている目線で読む平安常識は、相当不快な事も多い。重犯罪者(現代)が友であり続け、苦労人が割を食い続ける。だけどなんとも、「探偵は御簾の中」が描く時代では、そんな事は当たり前なのだ。
所々批判的な文章になってしまったが、思うようにいかない人間関係こそが魅力となり、物語を錦に織上げていることは、間違いない。
続いて、ブログ主のあひるです。
津原泰水『たまさか人形堂ものがたり』
2009年に文藝春秋より単行本が刊行され、Wikipediaに記事があるほど、読書人には言わずと知れた名作ですが、今年5月、創元推理文庫版が発刊されました。
先生(ポラン堂店主)をはじめ、身近な方々から高い評判を聞いていながら読もうとしていなかった私は、この創元推理文庫版を本屋で見かけたことをきっかけに手に取り、読み耽り、結果、むっちゃ好きでした。もっと早く出会いたかった。
会社をリストラされた主人公・澪は祖母が生前営んでいた人形店「玉阪人形堂」の権利書類一式を、祖父から託されます。お祖母ちゃんっ子だった彼女は、生活の目途がなくなったら閉店しようという覚悟で日本人形の零細小売店を始めますが、修復に主軸を移したことと、何より有能な二人の職人を雇えた幸運によって、繁盛とまではいかなくても店を続けられるようになります。
本作の魅力はまず、その二人の職人です。
一人目は富永くん。人形オタクで、前途ある新卒でありながら、修行と考えているから無給でもいいと志願して店に入ってきた青年です。人形愛は確かながら、人間に対しては毒舌で澪にも遠慮のない自由人ですが、若者らしいあどけなさとも思えるところもあり憎めない。修復以上に人形を作る芸術的才能にも恵まれていて、彼手作りのテディベアが店の売れ筋商品にもなっています。
二人目は師村さん。人形の修復依頼が増え、思い余って新聞に掲載した「あらゆる人形を修復できる方」の求人に、一人応募してきた男性です。たぶん世間にある半分くらいの種類なら、と彼が言うのも謙遜じゃないのかというくらい、何でも直せます。あまりの技術に澪はその名から検索しようと試みたこともありましたが、本人からは名前を変えていることを仄めかされ、検索しても意味がないと言われてしまう始末です。実際『たまさか人形堂ものがたり』は連作短編であるものの大軸として彼の秘密や、彼とある人形の因縁が鍵となっていきます。
そんな二人に臆したり、ましてやどぎまぎすることもなく、フラットで、人形に対する知識はありながらも超人的ではなく、読者の我々側に居てくれる語り手兼主人公の澪さんの存在ももちろんこの作品に欠かせません。
そんな彼女たちの出会いや、玉阪人形堂の再興からではなく、そんなこんなした三人の店に依頼が来るところから一話が始まりますので、最初からだれることなく入り込みやすい。
一話で登場するのは、人形の顔を修復してほしいという人形のように美しい貌をした女性。人形が壊れていなかった頃の写真を見ると依頼者と瓜二つです。けれど、修理を試みた師村さんは人形が三十年以上前に作られていることに気付きます。依頼者に似せた人形ではなく、人形に似せた依頼者……果たして、妖艶なミステリーを予感させませんか。
各話が、人間と人形をテーマに、幻想的でありながらも、可笑しく、慎ましく、悲しく、優しい物語たちとなっています。もっと芯をくって、師村さんの家の場面や最後の章など語りたいことは山のようにあるのですが、ミステリーの要素もあり、これから読む人の楽しみを奪ってしまいかねないのでここらで留めます。
続編『たまさか人形堂それから』の創元推理文庫版も今月に発刊予定です。すっかりはまってしまった私は元々の文春文庫版を探し歩いて既に読んでおりますが、そちらも堪らなく面白い。『たまさか人形堂ものがたり』の二話から登場し、活躍しつつもネタバレを多少含むのでこの記事で紹介できなかった、もう一人の魅力的な職人、束前さん。なんというか彼に悶えますので、どうか『~それから』も、二冊合わせて、読んでみてほしいです。
ということで、二人による一選ずつでした。
梅子さんと私、互いに承知のことなのですが、わりと読書に求めるものや姿勢が異なるので、紹介文の文体のようなものもこうも違うのだなと記事を作りながら、面白がっております。「ポケットモンスター アルセウス」は私もハマりましたし、今は二人して「モンスターハンター サンブレイク」に勤しむなど、付き合いが長いだけにいつも近いところで同じものを楽しんでいるのですが、けれど、厳密にはポケモンもモンハンも楽しみ方が違うんですよね。
共通するのは、互いの性質、モチベーションや目的の違いを、二人して面白がれるということです。良き友人です。
上半期はこのブログのおかげもあって読書する機会にも恵まれました。
この調子で読んでいきたい。下半期の出会いも楽しみです。
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