この姉妹がすごい! 小説3選
こんにちは。外は大雨です。
天気はどうあれ、日が落ちるとちょっと涼しくなってきたんじゃないでしょうか、どうでしょうか。
ここ私の最近は、バスケ観戦にえらいハマってしまい、外出先でも本を読むよりYOUTUBEを観てしまい、どうにか自分を取り戻さねばと何度も自分で自分の頬を平手打ちしながら、このブログ記事を書いています。
さて、今回は今年の6/4更新分の記事「この兄弟がすごい!」の裏面「この姉妹がすごい!」な小説紹介をお送りします。
このブログを書く中で今や記念日に特段詳しくなってしまった私にはお馴染みなのですが、3/6が弟の日、6/6が兄の日、9/6が妹の日、12/6が姉の日でございます。6/4は兄の日に近いということで、兄弟小説特集を行いましたが、本日は妹の日が近いということで、姉妹特集を致します。
ちなみに、ふたご座生まれ(5/22~6/21)の中間日であるからという理由で6/6が兄の日なんですが、妹の日は何故かわかりますか。
おとめ座生まれ(8/22~9/22)の中間日だからなんだそうです。妹は可憐な乙女の象徴だからなんだそう、です。理由はどうあれ、等間隔に並べたかったんだなという熱い気持ちが伝わりますね。ぜひ他の二つの日の理由も調べてみてください。
先週の回でお伝えしましたように、このブログの定期更新は今月迄となります。
一旦終わる前に必ず書きたかった素敵な姉妹の小説特集、皆さま、お付き合いいただければ幸いです。
津村記久子『水車小屋のネネ』
今、姉妹小説を紹介するのであれば絶対に外せない一冊、というか、おそらく10年、20年後でも、素敵な姉妹の小説特集をすれば必ず入ってくるだろう名作で傑作、でございます。
7月に発売した本の雑誌社の「本の雑誌」の「2023年上半期ベスト10」で一位、8月に発表された第59回「谷崎潤一郎賞」も受賞という怒涛の勢いですが、何が衝撃、というような作品ではなく、ただただ幸福感のある、頁をめくることが惜しいくらい、素晴らしい本なのです。
「ネネ」は姉なのか妹なのか、と思うでしょう。どちらでもなく、鳥、です。ヨウムという、オウム目インコ科の大型インコです。
物語は第一話「一九八一年」のタイトルで始まります。
18歳の理佐は、母親が大学の入学金を恋人の事業資金に使ったことで、大学には行かせられなくなった、と告げられたことをきっかけに、一人立ちしようと決意します。その決意を胸にアルバイトに勤しみながら母とその恋人への失望で家を避けていた理佐でしたが、10歳離れた妹・律がその母の恋人に厳しく虐げられていることを知ります。10歳離れた、仲良し姉妹とは言えない距離のある二人ですが、家族から遠ざかる為、縁もゆかりもない田舎町で二人暮らすことにするのです。
理佐の働き口は求人票に「鳥の世話じゃっかん」と書かれたそば屋です。
そば粉を水車小屋の石臼で挽いていることが自慢の地元で有名な美味しいそば屋さんですが、その水車小屋には「ネネ」という賢いヨウムがいます。ネネは、石臼の中身がなくなって空挽きになったら「からっぽ!」と叫ぶ大事な仕事を請け負っています。自在に喋る、言葉を理解する、なんていうとファンタジーめいて思えますが、ネネはとっても賢いながらもちゃんと鳥らしく、周囲をくすっとさせるようなプライドを持っている、すごく可愛い鳥なのです。
18歳と8歳の二人暮らしはひたむきに、少しずつ衣食住を整えながら、どうにか成り立っていきます。そば屋の夫婦をはじめ周りの大人たちが冷静な心配をしながらも、二人の頑張りを否定したくないという温かい眼差しで見守っているのがっすごくいいのです。
そして目次でわかるように、「一九九一」「二〇〇一」そして「二〇一一」と十年ずつ各章は進みます。8歳の律が18歳になり、28歳になる、それだけでもじんわりきますが、10歳差の姉妹ですから、章が進むごとに律が姉・理佐の年齢になるのが感慨深いだけではない、すごく奥行のある世界を見せてくれます。
何度涙腺にきたかわからない、心の奥底に染み渡る傑作です。
木皿泉『さざなみのよる』
姉妹小説といえば、でまず浮かんだのがこの作品。
木皿泉さんというと脚本家さんですし、この物語の前身は2016年と2017年NHKが新春に放送した、スペシャルドラマ「富士ファミリー」となります。大人気だった朝ドラ『あまちゃん』のスタッフやキャストが多く参加したドラマで、メインの三姉妹は薬師丸ひろ子さん、小泉今日子さん、ミムラさん(今は美村里江さん)という豪華な三人でした。
本としては2018年に発刊され、2019年の「本屋大賞」にノミネートされるなど話題になりました。ドラマと本、どちらかしか知らないという人も多いのではないかと思います。片方だけでも全く問題なく、楽しむことができます。
内容はというと「書店員が選ぶ 泣ける本第1位」の帯がつくのも納得の、そりゃあ泣けちゃう一冊なんですが、わざとらしくなく、ふらっとに胸にじんわりくるとてもいい物語なのです。
高校生の鷹子、中学生のナスミ、小学生の月美の三姉妹だった彼女たちは父と母を相次いで亡くし、父の叔母・笑子と四人で生きてきました。
一話は43歳となった次女のナスミが病院で息を引き取るところから始まります。
いや、病気で死んでしまう話なら読まない、と思ってしまわれる方もいらっしゃると思うのですが、最初のナスミの視点、視点といっていいのかわかりませんが、病床のナスミから溢れる独白の優しさやコミカルさ、鋭さと柔らかさ、全てが本当に素晴らしく、ぐっと胸にくる名文はたくさんの人に味わってほしい。
その後は姉・鷹子の章、妹・月美の章、東京からナスミの田舎に移り住み、小国家の一員となっているナスミの夫・日出男の章、と各章主役は代わり、親しい人間を亡くした後に続く人生が、それほどしっとりしすぎずに、それでも温かく描かれていきます。
お涙ちょうだいはちょっと、と避けてしまわれる方はもったいない。木皿泉さんならではの生活の切り取り方や、共感できる心地よさを味わってみていただきたいです。
渡辺優『ラメルノエリキサ』
2016年に小説すばる新人賞を受賞し、刊行された作品です。ここ数年、16歳の若さで受賞して話題になった青羽悠さんや、このブログでも絶賛紹介させていただいた『ラブカは静かに弓を持つ』の安壇美緒さんなど、話題の尽きない新人賞で、私も当時話題の受賞作として手にとりました。
痛快でポップで読みやすい語りが特徴の、なかなかインパクトのある女子高生主人公の物語です。何が良いって、主人公のキャラクターなんですが、一人語りが面白い系小説にもなかなかいないクセのある性格をしています。
幼い頃、愛猫のミーナの足を、母の営むピアノ教室の生徒である「クソガキ(原文ママ)」に折られたという過去を持つ主人公の私、りな。彼女の母は慈悲深い心でクソガキを許し、その子の心を心配し、りなたち姉妹に、人を許すことの大切さを説きました。しかしどうしても怒りが収まらないりなは、そんな彼女の様子を察した姉に無理に復讐をするなと諭されるのではなく、「目には目を歯には歯を」のハンムラビ法典の精神を教えられ、両足を折るくらいにしようとそのクソガキを階段から突き落としたのでした。
以来、姉に「復讐の申し子」と呆れられるくらいになったりなは、道端でぶつかった相手にすら「許せない」と反射的に思うような思春期ガールとなりました。とにかく自分を抑えない、やられたらやり返す(倍返しではない)主人公に、他にはない気持ちよさを感じてしまうのですが、この物語はそんな彼女がぶつかられ、背中を刺されるところから始まります。
刺されたことに気付き、意識を失う直前にすら「お前絶対ぶっ殺すからな!(原文ママ)」と叫ぶりなちゃん、さすが。
ただ、勿論といっていいでしょうけれど、彼女が痛快に復讐を成し遂げて相手をぼこぼこにする話にはなりません。犯人捜しにはちゃんとミステリとなっていきますし、自分に正直でありながらも、弱さを認めない頑なさをもった主人公の心理描写はうまく芯を捉えているように思えます。彼女に全ての正しさを説く母親が毒親かどうか、というのもとても面白い命題的ですし、綺麗ごとに蓋をされる本音というのが、すごく現代的な鬱屈を生んでいます。
そして何より、姉。姉妹小説として紹介しているのは、こじつけではありません。姉の存在が大きすぎる、姉妹の関係が良すぎる、そんな一冊なのです。
以上です。
図らずも(←よく使っている気がしますが、)女性の作家さんが揃いました。これは「この兄弟がすごい!」特集を行ったときと、似ているように思います。
理想の姉妹、すごい姉妹、というよりもリアリティーがあってきっとすぐ近くにいるんだろうというくらい、共感できる姉妹の描写が目立ちます。作家さんたちの兄弟姉妹事情はわかりませんが、モデルがいてもおかしくないくらいです。
加えて、今回の三作は、人生、というものを考えさせるほど、それぞれの歴史を描いています。同じ女性として姉や妹の生き方に共鳴したり反発したり、特にそんなことは考えず一緒にいたり、けれど全く同じ人生にはならないから結局対称的と思えるような描き方になっていたり。
むろん、私の読む小説の偏りでそんな傾向を感じているだけかもしれません。
皆さんもお気に入りの「姉妹」について考えにふけったり、素敵な小説を読んだりしてみるのはいかがでしょうか。ではまた。
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