サポーターズ企画~子どもの頃読んだ本①~
こんにちは。
来週から気温30度超えが続くと聞いています、ますます夏ですね。
学生の方々は夏休みも近いのではないでしょうか。
ということで、夏休みに読む本に迷っている方も、勧める本に迷っている方も、何にも関係なく子どもの頃を懐かしみたい方も、特にそうでもない方も、ちょっと立ち寄っていただければの企画、参ります。
テーマは「子どもの頃読んだ本」。
ポラン堂サポーターズの一人、はねずあかねさん発案の元、3月くらいから他のサポーターズに原稿を募集しておりました、なかなかの一大企画でございます。
結果面白い原稿がいくつも集まりまして、ここからなんと4週連続で記事にさせていただきたい予定です。
それぞれ幼少期~中学生までに読んだ本一冊を選び、文章を書いております。
初回は企画者のはねず氏、そしてわたくし、あひるで参ります。
お時間ございます方、お付き合いくださいませ。
村山早紀『シェーラ姫の冒険』 ~はねずあかねさん~
通っていた幼稚園がたまたま毎月厚紙の絵本を与えてくれ、誕生月にはハードカバーの絵本を与えてくれる――なんてことをしていると、幼稚園生にして立派に文字を読む子に育つというものです。小学生になるとそういうことはなくなりましたが、今度は教科書が与えられます。もちろん、さっさと読み切ってしまうわけです。
そんな私をどう見ていたかはわかりませんが、親は私にぽつぽつと本を買い与えてくれました。その中で特に当時の私を魅了して止まなかったもののひとつが「シェーラひめのぼうけん」シリーズです。こちらはフォア文庫から出ているものですが、青い鳥や角川つばさ、集英社みらいなど、あの辺りのサイズですと言えば伝わるでしょうか。全10巻。立派な長編です。私の親は買う本の巻数に頓着していなかったのですが、幸運にも1巻である「魔神の指輪」が最初に手元へやってきました。
シェーラは砂漠の東の果てにあるシェーラザード王国のお姫様です。悪い魔法使いのサウードに王国の全てを石に変えられてしまい、元に戻す方法を求めて幼馴染で魔法使いのファリードと旅に出ました。賢者様に会うために寄ったアハマルの町で元泥棒のハイルと出会い、様々な人に助けられながら、王国を元に戻すため、世界を救うため、旅していきます。
剣も魔法もある、砂漠の国の物語。砂漠といえば魔法の絨毯ですね、もちろん出てきます。最初に読んだのが小学校中学年くらいだったと記憶しているのですが、私はこの本に出会ったからこそ、ハイファンタジーの本を求めて図書館をうろうろしたんだなあと思います。あとは挿絵が佐竹美穂さんの本。一目見て佐竹さんの絵に惚れ込んでしまったので、彼女が挿絵の図書館の本は片っ端から読んでいた気がします。
話をシェーラの方へ戻しますが、多く出てくる人物の誰もかれもが魅力的なのは承知で、私はシェーラが一番好きです。元気でおてんばでとっても怪力なので、一般的お姫様像とはおよそ違うのですが、だからこそ旅ができるといっても過言ではありません。シェーラ姫が強いということに、旅の一行はどれだけ助けられてきたでしょう。
もちろん、長い長い旅なので弱気になることだって、自分が嫌になることだってあります。その度にシェーラはちゃんと復活します。シェーラは心だって強いお姫様です。
旅を続けるうちに、シェーラは出会った人々や仲間と絆を深めていきます。それはシェーラの持つ虹色月長石の指輪に宿る魔神も例外ではありません。実は最初に呼び出したときは、以前に結んだ契約の切れ目でもありました。以前契約を結んだ人物が、魔神に何も良い物を与えられないのなら、自由になるがいいと遺していたのです。そういう契約と言われればそうなのですが、契約にきっちり従う辺り、この頃の魔神はシェーラに対してそれほどの情はないように感じます。シェーラはどうにか契約を結び直し、道中に呼び出しては助けてもらったり、一緒にお茶を飲んで過ごしたりします。旅を経てシェーラと魔神は互いにとても大切な存在になっていました。
シェーラの指輪の魔神は物語の最後まではいてくれません。でも、それは魔神にとってシェーラが本当に大切だったことの証でもあります。この辺りになると、私はもう涙なしではいられない状態になってしまいます。実を言うと、小説を読んで泣いたのは「シェーラひめのぼうけん」が初めてだったのです。
さて、ベタですが、当時の私が一向に覚えられなかった魔神を呼び出す呪文を書いて、今回は終えたいと思います。
〈古の太陽と月と星の輝きよ、風と砂漠の砂と地下水の流れよ、いま指輪の虹色の光の中に宿り、その昔の契約を我が前に示せ。尊き姫サイーダの名において、現れよ、魔神、魔族の王、アルフ・ライラ・ワ・ライラよ――!〉
森絵都『リズム』 ~あひる~
白状致しますと、「子どもの頃に読んだ本」というテーマを発案された際に、「中学生までに読んだ本ということにしてくれ」と嘆願したのは私です。小学校のときに読んだ本なんて『ハムスター研究レポート』(4コマ漫画)、『デジモンアドベンチャー』(ノベライズ)くらいしか思い出せない。ブログ主として恰好がつかないからどうか規制緩和を、と申し込み、ブログ主であるからこその権力をもって発案者に条件を呑んでもらいました。今でこそ本紹介のブログなどやっておりますが、ちゃんと小説を読むようになったのは最近で、少なくとも、今が人生で一番読んでいるのは確実です。
そんなこんなで中学生の頃で良いとなったとはいえ、なーにを書いたものかと相変わらず途方にくれながら思い返していると、すとんと真上から降ってくる記憶がありました。中学校の図書館の入口の新刊本だかおすすめ本だかにあった棚で、ひときわ目を引いた本、森絵都さんの『リズム』です。
今見ても、私みたいなもんが好きそうな表紙だなと思います。空のような水面のような絵柄に、可愛くシンプルなタイトル、少し小さめで薄く触り心地もいい一冊です。とはいえ表にも裏にもあらすじはない。帯があったのか、たぶん中学生の恋愛ものだぞと思って選んだのは覚えています。作者は森絵都さん、この後の人生で『宇宙のみなしご』『アーモンドチョコレートのワルツ』『カラフル』『永遠の出口』『みかづき』等々、長い付き合いになる作者さんですが、そのときは知る由もありませんでした。当時の図書館の、まだ本を手に取る前の私の前に未来人として意気揚々と現れて熱くプレゼンしたいところですが、別にそんなことをしてもさっぱり響かなかったでしょう。何の情報もなく、読書への興味もそんなになかったあの頃の私は、読めるかわからないけれど装丁が良いという直観でとりあえず手に取ったのです。
今や角川文庫の一般書に並んでいる森絵都さんのデビュー作ですが、今回の企画の為当時手に取ったハードカバーを買い求め、読み返しました。
1頁目を開いてみて、(たぶん)10.5ポ!、とまぁ児童書らしい文字の大きさと、行数の少なさに苦笑してしまいました。中学生向けでこの文体は幼いのでは、と調子にのって偉そうに感じてしまうのですが、それは主人公が小学2年生のときに書いた作文の文章から始まる所為でもあって、内容は、もうさっぱり忘れているからでもあるのでしょうけど、大人でも充分のめりこみながら読めます。
中学一年生の女の子・さゆきには、幼い頃から家族ぐるみで付き合いのある幼馴染の兄弟がいます。特にさゆきは東京の有名大学に通う兄のほうではなく、高校を辞めてガソリンスタンドでバイトしているバンドマンの、いつもさゆきと遊んでくれる弟の真ちゃんのほうが大好きです。なるほど中一女子ならそうかもなと、勝手に大人目線になってにやにやしてしまいます。
当時の私は、どうだったかと、夢を追いかける真ちゃん派だったのかと、思い返しますがどう頭を振っても思い出せません。楽しめたのか、とか、読みにくいとは思わなかったのかとか、今こうして近所のスーパーの2階の休憩スペースで、180頁程を一時間くらいで読み終えてしまえそうだけれど、当時は読むのにどれくらいかかっただろうか、とか。学校の風景、商店街の風景、匂いや音や景色が短く「リズム」良く並べられるときほど、主人公の何も変わらないでほしいという気持ちが溢れているのだと、当時の私は……まぁそんなことは気付けなかっただろうけど、でも、ちゃんと面白かっただろうか、なんて。
わかるのは、やっぱりこの本が最初に読んだ小説だということです。国語の教科書は読んでいただろうから、物語は初めてではなかったけども、初めて自分で選んで一冊読み終えた小説だということです。面白かったか、なんて不安を漏らしましたが、実際その後続編の『ゴールドフィッシュ』も読んでいますし、図書館にあった森絵都作品を網羅しているわけなので、きっと気に入るところはあったのでしょう。
終盤、上京することを決めた真ちゃんにさゆきは最後、海に連れて行ってもらいます。海でひとしきりはしゃぐ間すら、変わらないものはないのだという絶対が、主人公の心情に満ちています。夢を追う真ちゃんをうらやましいと言い、真ちゃんはさゆきにもやりたいことが見つかるはずと言います。「やりたいことが見つかったら、こわがらずにぶつかってけよ。体当たりでドッカンとさ。やりたいことをやるために生まれてきたんだからな、おれたち」
真ちゃんの言葉に、近所のスーパーの休憩スペースでぽたぽた泣く今の私。
当時の図書館の、まだ本を手に取る前の私は、森絵都作品のプレゼンよりも、未来の私のこんな状況のほうが興味深いかもしれないと笑ってしまいます。──今は実家を離れて一人暮らしをしているよ、とかのほうが、えー、とか言ってちゃんと話を聞いてくれそう。まぁ話したいこともそんなにないけれど、本は読んでますよ、とは伝えたい。
本は読んでますよ、いろいろあるけど、結構ずっと読み続けるんですよ。だから君の直観は合ってる。その最初の一冊を、とりあえずで良いから早く手に取って。
第一週目は以上です。
初回は企画者+ブログ主で固めてみまして、来週からさらに個性的で読み応えのあるポラン堂サポーターズの文章を掲載できるのが、今から楽しみだったりします。
自分の子どもの頃というのは、絶対に動かせないものでもあり、どうとでも動かせるものでもあるというのが今回のこの企画で、私自身文章を書いてみて思うことでした。ノスタルジーはなんて雄大なのかしら、とちょっとポエティックに浸ってみたりなんてして。
皆さんが子どもの頃に読んだ本、一冊を紹介するとしたらどの本になりますでしょうか。
この企画は来週以降も続きますので、お付き合いいただけそうであれば、ご自身の一冊についても考えてみていただくと楽しいかもしれません。それでは。
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