サポーターズ企画~子どもの頃読んだ本②~

 はねずあかねです、こんにちは。

 近頃は突然大雨の降る日が多いですね。

 ここにあひるさん以外の人が来るのは初めてではないでしょうか。僭越ながら、今回企画を立ち上げたということもありまして私もこの場で筆をとらせていただいております。


 先週より掲載している企画のテーマは「子どもの頃に読んだ本」。

 幼少期〜中学生の間に読んだ本1冊をテーマに、ポラン堂サポーターズの皆さんに原稿を募りました。

 2回目の本日は、江戸川乱歩でお馴染みの香椎さん、作家の阿月まひるさんのお二人でお届けします。





西尾維新『零崎軋識の人間ノック』 ~香椎さん~

 小学生の頃、本を読む習慣が全くなく、アニメオタクの道を驀進しておりました。最もよく見ていて、私のオタク人生の軸の一つになったのが『ドラゴンボール』です。小学校生活の数年間で、無印からGTまでを何周かして、中学生の頃には己の血肉となっておりました。

 それゆえに中学生の頃、読書好き友人に勧められたのが『零崎軋識の人間ノック』でした。全部読まなくてもいいから、とりあえずここ読んで!と言われたのが、萩原子荻(はぎはらしおぎ)と市井遊馬(しせいゆま)の雀の竹取山での会話部分です。読んだことのある方ならピンとくるかもしれませんが、萩原子荻が「ヤムチャが天下一武道会で優勝する可能性があったかもしれない」と語るあのシーンです。

 二十代半ばの私たち世代は、ドラゴンボールを通っているオタクの方が少なく、(男性は割と通っているのですが)未だにドラゴンボールを通った女オタクと出会ったことがない事態です。もちろん友人も通ってきておらず、「ヤムチャさんってどんな人? 本当に優勝できないの?」みたいなことを聞かれました。ちなみに私は今も昔も、ヤムチャは勝てないだろうなと思っています。魔ジュニアが出ていた第二十三回天下一武道会の実力ならまだしも、その以前ならばランファンにもナムさんにも勝てなかっただろうなと思っています。

 長くなりましたが、これが西尾維新とのファーストコンタクトでした。

 中学生の当時、『化物語』が刊行されたくらいの時期で、図書室には『魔法少女りすか』や『戯言シリーズ』、本作『人間シリーズ』が並んでいました。『人間シリーズ』は『戯言シリーズ』のスピンオフ的な立ち位置で、『戯言シリーズ』で登場した殺人鬼「零崎人識(ぜろさきひとしき)」の所属する殺人鬼集団「零崎一族」のお話です。人識には三人兄がいて、本作はそのうちの一人、零崎軋識(ぜろさききししき)がメインです。殺人鬼「零崎軋識」としての顔と、「暴君」に仕える「式岸軋騎(しきぎしきしき)」としての顔を持つ、二足の草鞋を履いた人物です。

 正直なところ、本作では軋識の日常(殺人鬼なのでバチバチに殺し合いますが)を描くだけなのですが、西尾維新の世界観やキャラクター設定は新鮮でした。普段本を読まなかったので、「小説で漫画の話していいんだ!」と思ったり、漫画やアニメよりも露骨に決め台詞が入ったり、「七十二回殺してやる!」とか中二病全開だったり、ライトノベルという単語すら知らない頃でしたが、世の中にはこんな小説もあるんだと、非常に興味深かったです。

 それでもあの文字数を読むほど、読書に関心がなかったので、『戯言シリーズ』とともに、全巻読破するようなことにはなりませんでした。しかし創作をする者として、西尾維新の影響は少なからず受けておりまして、高校生の頃くらいまでは「──否」とか、「~なのだけれど」とか書いていたり、登場人物の名前を地名から取ったりしていました。

 数冊読んだだけの人間がこうなのだから、もっと読んでいた方はきっととんでもないことになっていただろうなと思います。きっと中二病ど真ん中の年頃ならば、どの時代の子にも刺さるのではないでしょうか。大人が勧める本ではないと思いますが、そっと本棚に忍ばせて、何も知らずに手に取ってしまった子たちが狂っていく様を見届けることは許されるのではないかと思います。 





あさのあつこ『NO.6』 ~阿月まひるさん~

 私が色素が抜け白くなった髪の少年というキャラクターデザインに対して並々ならぬ熱情を持つようになったのは、あさのあつこ氏の『NO.6』を中学生のころに読んだからである。

 と書くと、ハイハイ、『NO.6』の良さをわからない阿呆め。これぞキャラ萌えの浅学野郎のコメントだな……と失笑されてしまいそうだが、ここは一旦、偉そうに言わせていただく。

 定価で買った本を、どう読んでも読者の自由である。

 少なくとも中学時代の私は、紫苑とネズミが西ブロックでどう生きるのか、ここからどこへ行くのか、そして、二人はどうなってしまうのかが、授業そっちのけで気になって仕方がなかった。

 あの頃の私は暇さえあれば図書館に行って目についた本を片っ端から借りていっていたが、あさのあつこ作品、ことにNO.6は借りるだけでは足りなかった。発売日にはダッシュで下校して本屋に駆け込み、手汗でペトペトになったお小遣いをレジに突き出して、自転車を立ち漕ぎして猛然と帰宅し、部屋にこもって読みふけったものだった。

 当時の記憶、鮮明に思い出せる。何節かはいまだに暗唱できる。続刊が出るまでの間、馬鹿みたいに読み返した。自分なりにネズミの瞳、紫苑のヘビのような痣を想像し、ノートに描きつけたりした。たぶん今でも実家を浚ったら残ってるんじゃないだろうか、若い私の、物語の咀嚼音が。

 あのとき食べたものは、いまだに私の栄養になっている。

 これはファンの欲目もあるかもしれないが──あさのあつこ氏の作品をティーンエイジャーのときに読むか読まないかは、個人的に、小説を好きになるかならないかの一種の試金石ではないかと思う。

「朝の読書の時間とか、無理やり本を読まされて嫌だったな~」

「感想文とか、正解が決まってるでしょ。読んだ感想を素直に書いたら怒られて、それから本を読むのが馬鹿馬鹿しくなっちゃった」

「本を読んだら眠くなる。読書に向いてないんだよね」

 大人になると、学生のときとは別ベクトルで、特に親しくもない人と関わる機会が増え、そういう意見を聞く機会も増える。

 ちなみに、ここで言う本とは小説のことだ。漫画を本と呼ばない、カウントしていないひとはいまだ多い気がする(不思議)。

 私は必ずしも「人間は本(小説)を読まねばならない、好きにならなくてはならない」とは、思っていない。本なんて現代日本じゃ娯楽のひとつである。嗜好品のような扱いですらある。

 コーヒーを飲むことやらガーデニングやらと、非なるが似てる。かもしれない。

 私はたまたま読書を嗜む両親のもとに生まれ、絵本、童話、漫画、小説を与えられる環境にあった。かわりにゲームが禁止されていたので(余談だが、当時はゲームボーイがキッズのトレンドであり、小学生のくせにポケモンを、ゼルダを、マリオを全く触れてこなかった私は周囲の話に入れず、そこそこ人間関係に影を差した)、当たり前のように本に耽溺していったけれども──もちろんみんながみんな、そういうわけじゃない。本に触れなかった、本に触れても夢中にならなかった人も、そりゃいるだろう。

 なんで本なんて読むの? と言われることも、まあなくはないが、読むも読まないも個人の自由であるし、個人の自由であることが素晴らしいのだから、お互いの人間性までは否定しないようにしたいものである。

 ついでに、定価で買った本の感想に対して、浅いだの深いだのも。放っといてほしい。

 たとえば、9.11、アンネの日記、テロリズムと国家権力、独裁者、情報操作、人権、弾圧や蹂躙、差別と貧困と劣悪な環境下での人間性の堕落、極限状態で試される人間の善性……、などなど、そんなことがNO.6の読書中、頭をよぎっても、よぎらなくてもいいのだ。

 優しい物語は、読者の知識のなさを否定したりしない。

 読者を笑うのはいつだって読者である。

 なので私は30歳を越えてなお、こう言いたい。

 紫苑。ネズミ。

 めっちゃ好きだ。

 あなたたちが私を本に溺れさせた一助だ。実家の床が抜けるからこれ以上本を買うなと、読書家の父をして言わせた一因だ(本は買い続けたが実家を出るまで床は抜けなかった)。

 私にNO.6を読んだ記憶がある限り、二人のことが今後もずっと好きだ。

 だから私は、無垢でありながら汚れることを恐れない年若き白髪のキャラクターも、妖艶で情に厚くて寝相の悪い美青年も、今後もずっと好きだろうと思う。

 それは喜ばしいことだと、個人的には思う。





 第二週目は以上となります。

 今回は、お二人とも中学生の頃に読んだ本となっております。自分が何歳であれ、衝撃を受ける作品というものは存在しますが、とりわけ中学生の頃に出会う色々なものの影響力というのは凄まじいものがありますよね。私もこの頃にラノベに出会ったり、深夜アニメに出会ったりなどしました。

 今回の企画は、私が児童書好きということ、あの頃が一番の読書家だったことが高じて、他の皆はどうだろう、と思ったのがきっかけです。

 さて、今回で半分なので企画の折返しです。よろしければ是非、このあともお楽しみいただければ幸いです。それでは。

ポラン堂古書店サポーター日誌

2022.4月に開店した夙川の古本屋さん 「ポラン堂古書店」を応援するために、 ひとりでに盛り上がってできたブログです。 ・ポラン堂古書店のおすすめ情報 ・ポラン堂古書店、 およびその店主が関わるイベントなどのレポート ・店主や仲間たちを巻き込む、読書好きの企画記事 ……などなどを毎週日・水ほか、で更新予定。 ちなみに店主とブログ主の関係は大学時代の先生と生徒なのでたびたび「先生」と呼びます。

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