ともだちを想う作品特集
こんにちは。
あれもしたいこれもしたい毎日ですが、2月は折り返し地点を迎えています。
ということで2/22、何の日かご存知でしょうか。
ニャンニャンニャンの日で猫の日だそうですが、猫小説特集はすでにやりました。やりましたとも(2022/7/31更新分)。さすがに早くも2度目ではいけないと、他にも考えるのが楽しい記念日はないだろうかと私は探しました。そして、巡り合ったのです。
世界友情の日。
ボーイスカウト・ガールスカウトの創始者ロバート・ベーデン=パウエルさんという方とその妻の誕生日だそうで、ボーイスカウト世界会議で制定された記念日とのこと。「国際友愛の日」とも言われ、世界的にみんな仲良くしましょうという日なんですね。
「友達」と聞いてどうでしょう。自分の大事な友達の顔が浮かぶ人もいれば、あの作品のあの登場人物同士の友情っていいよな、とか、あの二人の関係は果たして友達なんだろうか、とか、何を想うかは人それぞれですね。
今回は表題通り、ともだちを想う作品特集ですが、友情を語るなんて野暮なものです。あまり暑苦しくなく、フラットに語り始める為に、今回は「友だち」「ともだち」などの単語がタイトルに入る作品に絞ってみました。
温かいまなざしでご一読くださいませ。
重松清『きみの友だち』
キング・オブ・ザ友だち小説、と言ってもいいでしょう。
私個人の思い入れで言えば、トップ・オブ・ザ・ヤングアダルトです。
読むんだ若人たちよ。
中学生の頃、王様のブランチの特集で見、図書館で借りて一気読みをしました。そんな記憶すらこれほど鮮明なんだからよほどの衝撃だったのでしょう。
内容は各話に繋がりのある連作短編集です。
最初の主人公、恵美が11歳の誕生日に新しい松葉杖をプレゼントされるところから始まり、交通事故によって二度と治らなくなった足で生活する少女の話が始まります。特徴的なのは、文章の主語が「恵美は」でも「私は」でもなく、「きみは」となる世にも珍しい二人称小説であるところ。それは読みにくいのでは、と最初思うかもしれませんが、不思議なくらい身体に沁み込んでいきます。重松清先生、さすが過ぎる。
恵美ちゃん──僕はこれから、きみと、きみにかかわりのある何人かの子どもたちの話をしようと思う。
最初は、きみだ。
一見すると、少し恥ずかしいかもしれませんが、この「僕」とは誰かというのがミステリーになっていて、ぐんぐん読み進められる楽しい要素なのです。
毎話上記のような文章が挿し込まれ、「きみ」が変わるんですけども、この「きみ」という言葉の深みがこの物語の核というわけです。
肝心の友情は、というとなかなかディープでビターです。
交通事故にあった原因には友人の悪ふざけがあり、二度と歩けなくなった恵美はお見舞いにきた彼女たちを「あんたらのせいだから!」と泣きながら責め、以来友だちはいなくなってしまうのです。一人になってしまった恵美は、身体が弱く、クラスで元々一人だった由香と親しくなっていくのですが……。
章ごとに時は進み、小学生から大人になるまで毎話主人公を変えながら進みます。群像劇としても見事なので、毎回、次の「きみ」が楽しみなのも良い。
若人でなくても読んでほしい。おすすめです。
千早茜『男ともだち』
画像の帯にありますが、1月に発表された第168回直木賞受賞の千早茜さんの代表作といってもいい作品。実際に『男ともだち』は2014年に直木賞候補となっており、当時この作品が受賞しなかったことを悔しく思った、HMV&BOOKSのカリスマ書店員・新井見枝香さんが以降第13回まで続く新井賞を作ったのも有名な話です。
イラストレーターの職をもつ29歳の神名は関係の冷めた恋人と同棲しながらも妻子のいる愛人もいるというなかなかな女性ですが、ある日七年ぶりに大学の先輩だったハセオと再会します。このハセオという、自由で、束縛を嫌っていて、ぶっきらぼうだけど、妙に鋭かったりする、危ないところで助けてもくれる、爛れた雰囲気を持っていながら自分とはそういう関係にならずいつまでも気安い会話を続けていられる、語れば語るほどファンタジーめいた「男ともだち」をどう読むかというのがこの作品の楽しみ方です。
昨年12月のM-1グランプリでさや香というコンビが、男女の友情は成立する・しないのネタをしました。今話題のコント集団・ダウ90000が「今更」というネタで男女の友情をテーマに傑作ネタをしたことも記憶に新しく(YOUTUBEでぜひ)、今やいにしえの話題と思われていたそれは、今も現役として輝けるのではと最近になって思い始めております。
決してこのブログで男女の友情は成立するしない論を展開したいのではありません。
成立しているように見えて成立しない、とか、どこかしらに無理があるとか、そういう一見わからない瑕疵が明らかにする、というのが物語のフックとしてすごく楽しいのです。
神名は関係を持つ男性がいながらも、ハセオのことが大好きで、周りからどう訊かれてもそれが恋愛ではないという確固たる持論を持っている。神名のことをわかるという人もいれば、ずるいという人もいるでしょうが、私個人の感想としては、面白い、です。
どろどろして見えて、会話が軽快で読みやすいのも魅力です。ともだちを想う作品として、楽しみ甲斐のあるテーマだと思いますので、ぜひぜひ。
河原和音・山川あいじ『友だちの話』
実は今回、序盤から「小説を紹介」とは一言もいっていないのです。
こちらはマーガレットコミックス、そう漫画です。
どうしても、友だちとタイトルに入る作品というのであれば外せなかったのです。
原作は河原和音さん、『青空エール』等ヒット作に事欠かない漫画家さんですが、『俺物語!!』のように原作者としての話題作もある見事なストーリーメーカーです。そして絵が山川あいじさん、アレックス・シアラーの『チョコレート・アンダーグラウンド』をコミカライズするなど、デザインとして美しいキャラクターと表現力に定評がある漫画家さんです。
その二人の合作で話題、というか内容がとてもとても素晴らしく、1巻しかないにも関わらずウィキペディアに記事ができるほどファンの多い、傑作少女漫画です。
主人公は表紙の左側の英子、右側のもえ。もえというのがまたふわっとした見た目でありながらきっぱりした気持ちのいい性格で、同性には一目おかれ、異性からの告白が絶えない、超モテる子なんですが、誰よりも友人・英子のことが大事で、告白してくる男子には「私より英子を大事にして」という条件を突きつける難しすぎる面があります。そんなんきつい、英子の立場になればそんなこと言われたら居たたまれない、と思うのですが、英子という子がすんごい良い子で、不器用で仲のいい子以外にはっきり言えない性格ではあるのですが、大事に思われるのがわかる素敵な友だちなのです。
そんな英子の魅力に気付いちゃった男子が現れたことでこの物語は動きます。その彼がまぁナイス山川あいじなかっこいい見た目で、ナイス河原和音な賢い皮肉屋なのだから楽しい。
とはいえ、二人の友情のお話です。どろどろとなりようもなく、しみじみと友だちっていいなぁと泣けてしまう。仲の良い友だちを一人つくることがどんなに難しいことか、わかり合っている尊い二人なのです。
以上です。
友情というとこっ恥ずかしいですが、友だちというといろんなところで扉が開いて懐かしい気持ちや思い出が流れこんできます。自分の記憶のなかにも、あの人は友だちだったのか、あの子は今も友だちなのか、あの子と仲良くなりたかったけれどなれなかったなど、いろんなかたちにそれらは散らばっています。
いろんな形があっていい、素敵な関係性の一つですよね。
ということで世界友情の日、大掛かりな名前をしていますがこじんまりと、自分や誰かの友情について思いをはせてみるのはいかがでしょうか。
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